債務者を競売にかけながら、自分は任意売却になっている
その当時、新聞の報道では銀行などの不良債権は10兆円は有るとか、国家予算と同額くらいは有るとか、色々書かれていました。 当時、私が働いていたN保証は住宅ローン専門ですがそれでも、不良債権は1千億円は有りました。 代位弁済していないのを入れたら、3千億円も有ったと当時は言われておりました。
N保証も平成10年になると、新規の住宅ローンの保証を止めることになります。 理由は金融機関の吸収合併が、進んで行ったからです。 この2、3年前に抵当権者同士として、しばしば話をしていた他社の担当者達も次々に辞めて行きました。 そして、社名もどんどん変わっていきました。
ある保証会社の知人などは、給料も大幅に下がり、加えてボーナスも1ヵ月分になり、挙げ句の果てに自分の家が競売にかかってしまいました。 その知人は、それをやむなく任意売却で処理をしたのですが、それでも住宅ローンの残債が1千万円も有った為に、彼の退職金を前借りして補ったなんて話も有りました。
この同僚は、自分の家を任意売却で処理中に、彼の担当する債務者の不動産を競売にかけておりました。 その時の彼の心境はもの凄く複雑だって嘆いていました。
昭和の時代もこの頃になって、住宅ローンの事故となる原因が明らかに変わってって来ました。 1960年代の頃は、事故になるまでの平均時間は約60ヵ月でした。 不動産を購入して5年持てば、病気、怪我などで収入が減ったとかが無い限り、なんとか事故を起こさずに持ってしまいます。 だから5年以内で事故になる人は計画性も無く買った人が多いのです。 そして不動産業者は住宅金融公庫のゆとり返済、年金のステップ返済を利用し、今の家賃で自宅が買えますと言って何千万もの買い物をさせました。 確かに返済は家賃と同じ位の額ですが、ところがマンションの場合2万円前後の管理費、固都税などローン返済の他に3万円 ~ 4万円の金がかかります。
それに月々の返済額を少なくして、ボーナス返済を選ばされた人は普通は、本来ならばボーナスで一息付ける筈なのですが、それもできませんでした。 戸建を購入した方々は固都税はマンションより高いし、町会の付き合いだ建物に何かあれば、全て自己負担です。 こうして金がかかり過ぎ、5年を持たずに自己破産とか競売になるわけです。
ところが最近は10年、15年と払っていて、リストラや賃金のカットなどで事故になる人が増えています。 年収800万円の人が500万円になってはローンの返済計画も狂って当たり前です。
N保証も6ヵ月出ていたボーナスが2ヵ月になってしまい、同僚のBさんも300万円の収入減です。 私のその中の一人なのですが、その頃、サービサー法ができ、私の居たN保証からも債権回収会社へ転職した者もいます。
このN保証は、残念なことに、平成12年6月に3月の決算ができず株主総会が開催できず、破綻してしまいます。 同僚だったBさんは希望退職で退職金も少し多く貰い7月に退職しました。 付き合いのあった不動産屋に就職ができ、何とか債務者にならずに済み、自宅も売らずに済みました。 Bさんは債権者と債務者は紙一重だという事を痛感したそうです。